2020年6月7日に朝日新聞にて掲載された記事に、薄毛で悩む人だけではなく、AGAクリニックの医師たちもが注目していたことでしょう。
人のES細胞やiPS細胞から、毛包や皮脂腺などを含んだ皮膚組織をつくることに成功したという研究の成果が6月4日付の英科学誌ネイチャーに掲載されたと報道されました。
ES細胞・iPS細胞から毛包含む皮膚作製、薄毛治療も (朝日新聞デジタル『アピタル』医療・健康・介護より)
人の皮膚には温度調整や痛みの感知など複雑な機能を持ち、再現が難しいとされておりましたが、「毛包や神経、皮脂腺などが一体となった皮膚」が作られたことは非常に難易度の高い研究であり、薄毛や皮膚疾患の患者にとってみれば画期的な成果だと言えるでしょう。
人間の皮膚などの体細胞に、ごく少数の因子を導入し、培養することによって、様々な組織や臓器の細胞に分化する能力とほぼ無限に増殖する能力をもつ多能性幹細胞に変化します。 この細胞を「人工多能性幹細胞」と呼びます。英語では「induced pluripotent stem cell」と表記しますので頭文字をとって「iPS細胞」と呼ばれています。 名付け親は、世界で初めてiPS細胞の作製に成功した京都大学の山中伸弥教授です。
京都大学iPS細胞研究所 CiRA もっと知るiPS細胞>よくある質問>iPS細胞とは?
ES細胞(胚性幹細胞)に興味を持っていた山中教授は、奈良先端科学技術大学院大学の助教授だった2000年頃から、新しい多能性幹細胞の作製方法の研究をしていました。
マウスでの成功を受けて、さまざまな動物のES細胞が樹立され、1998年にはアメリカのトムソンらがついにヒトでもES細胞の樹立を成功させ、「ES細胞は半永久的に維持でき、目的の細胞へと分化させることができる」ということから、再生医療のソースとして大きな期待が集まります。
しかし、ES細胞から細胞や臓器をつくることができたとしても、それは移植される患者さんにとっては「他者」の細胞であるために、臓器移植と同じように拒絶反応の対象となってしまいます。
ES細胞(胚性幹細胞)は、不妊治療の際に不要になった「余剰胚(受精卵)」を、提供者にきちんと同意をとって作られています。つまりは他人の受精卵を培養して、尚且つ「胚」を破壊しなければES細胞を得ることができません。
このため倫理観からES細胞を用いた再生医療の研究に対して疑問を持つ人も中にはおり、日本でもES細胞を使っての再生医療は長年禁止されていました。
しかし政府は、今後あらたに作成するES細胞については、再生医療に用いることを可能とする体制の整備を整えており、iPS細胞への期待値も高いことがうかがえます。
あらゆる細胞に分化できる能力もったまま、培養し続けることができるのはiPS細胞もES細胞も同じですが、iPS細胞はES細胞とは大きく異なる点があります。
iPS細胞は、皮膚や血液など採取しやすい体細胞を使って作ることができ、患者自身の細胞から作製することができるため、分化した組織や臓器の細胞を移植した場合、拒絶反応が起こりにくいと考えられています。
特に、毛包や皮脂腺を含む頭皮の分化ができるようになれば、薄毛だけではなく他の皮膚疾患にも使用できるようになるかもしれない、今後の活動に期待できる報道でした。